2021年産
募集馬近況レポート

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 霜明けの朝。日毎に冬の気配が近づく北の大地で、1歳の若駒たちは白い息を吐きながらトレーニングに邁進していた。大樹レーシングクラブ2022年度募集馬は多彩な路線をカバーする個性豊かなラインナップ。13頭はいずれもBTC坂路での調教をスタートしており、ここまでは全馬揃って予定していたメニューをクリアしている。どの馬も年内にハロン15−15ペースまで上げて、年末年始でちょっとひと息。年明けのトレーニング内容は個々の成長度に合わせてそのまま進めていくか、基礎運動に重点を置くかを決めていく予定だ。荻野豊代表が「今年の1歳馬は今までのうちの馬たちとは一味違う競馬を見せてくれそう」と言えば、調教主任の出戸裕人も「21年生まれは総じて高いレベルにあり、外れがないという感触です。どの馬を選んでいただいても楽しめると思いますよ」と胸を張る。その期待値は勝負の年≠ニ位置付けた20年度産と比較しても同等か、ひょっとしたらそれ以上。揺るぎない自信の根拠を探るべく、両名のコメントを交えながら各馬の近況、今後の具体的なプランニングについてリポートしていこう。

クラウンアゲンの21年産

 これでもか、というくらい大量のチップが入り、昨年以上にタフになったビクトリーホースランチの周回コース。ここで終始一貫、どの馬よりも上下動の少ないなめらかな走りを見せていたのがクラウンアゲンの21年産だった。母は中央芝で3勝を挙げ、4代母にはディープインパクト、ブラックタイドら輩出したウインドインハーヘアがいる名門ファミリー。本馬の流れるような所作や流線形のボディラインは、優秀な母系の遺伝子を色濃く受け継いでいる証左だ。
「母クラウンアゲンは1歳時に私自身が競り落とした経緯があって思い入れがありますし、牧場の新たな看板血統として大事に育てていきたいと考えています。じつは先日、セリ当時の母の写真が出てきたのですが、その立ち姿というのが産駒2頭に驚くほどそっくり。父サトノクラウンの初年度産駒は芝に特化して好結果を出していますし、本馬も芝向きであることは間違いないでしょう」(荻野代表)
 1歳上の姉クローネウィルマ(父タリスマニック)はデビュー戦で致命的な不利を受けて敗れたものの、直線の末脚を見ても能力上位は明らかだった。現在は初戦で受けたダメージからの回復を待っているところだが、スムーズな競馬さえできればすぐに次のステップへ進めることだろう。本馬に目を戻せば428キロでデビューしたその姉よりもひと回り大きなフレームに生まれ、1歳初冬の時点ですでに400キロオーバー。荻野代表は「乗り出してからどんどん体が増えてきましたし、ここからの変化が楽しみで仕方がないですね。きっと春にはものすごく筋肉質な体に変わってサトノクラウンの姿に近づいてくると思います」とさらなる成長を確信している。調教主任の出戸も「ボディは姉よりも上ですし、乗り味や柔らかさは世代bP。動きが軽く、それでいて芯はしっかりと入っています。早期デビューでガンガンいくようなタイプではないものの、長い目で見た時に僕個人の評価としてはこの馬が一番」とこちらもかなりの好感触。現時点ではまだまだ細身で脚長な体型に映るが、走っている時の重心がぶれることはなく、日に2マイルのキャンター運動を楽々とこなすのだから見た目以上にスタミナがある。
「立ち姿や歩きが目立つ方ではないけれど、人を乗せて走らせると別馬のようになる」(荻野代表)のは、脚のたぐりがなめらかで回転がスムーズだから。BTC坂路でもフラつくことなく真っすぐ走り、前を追う気持ちも徐々に強くなってきている。心身ともに成長の途上にありながらも、すでに才能の片鱗はそこかしこに。ややセンシティブな気性すらもエンジンをフルスロットルに押し上げる着火剤ととらえれば推し材料になる。
「現段階で想定している舞台は芝の1400〜1600b。上がりの速い競馬に対応して、かみそりのように芝でスパッと切れるイメージを持っていますで、この子に関しては気性的にどっしりしすぎて欲しくはないです。そういう意味では男馬で良かったですね、いずれ自信がついてくればどっしりしてきますから。このまま順調に成長していってくれれば大丈夫でしょう」
 両親どちらの馬名にも王冠(=クラウン)が入るまさに至高の配合。ターフの申し子が頂点を目指していく姿を想像したら、ワクワクが止まらなくなった。

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スノーサミットの21年産

 集団を率いて誰よりも速く、誰よりも前へ。周回を重ねるたびに後続との差はじわりじわりと広がっていった。
 スノーサミットの21年産のポジション取りはいつだってわかりやすい。たとえ一緒に走っているのが旧知の仲間たちであっても容赦なく置き去りにして、単独でハナを主張。天候や馬場うんぬんは関係なく、自分がいかに気持ち良く走れるかを最優先するタイプだ。 「古馬みたいな性格をしていて、さっささっさと先頭に行きます。1歳のこの時期にこういう走りができる馬はなかなかいませんし、潜在能力や競走馬としての資質が高い馬じゃないとできない芸当です。終始、力強いキャンターをしますし、呼吸の乱れもないので相当に良い肺と心臓を持っていることは確か。良く動いてよく食べるので少々ハードに乗っても馬体は減らないし、成長期に入っていることもあって今はどんどん大きくなっている。他の同世代よりも一歩先を行っている感じがしますね」(荻野代表)
スノーサミットの21年産が作るハイラップを後ろの馬たちも一生懸命に追っていくので相乗効果も期待できそう。初もの尽くしだったBTC入り初日でも通いなれた道を行くかのようにすんなり屋内坂路コースへ。さらに迷うことなく先陣を切ってみせるのだから文字通りのリーダー格といっていいだろう。ゴール前の競り合いで手応えに余裕があるのになかなか前を抜かさない馬を見かけるが、その大きな要因は群れで生きる動物の本能と言われている。その点、我が道を突き進むタイプの本馬にそうした懸念はなさそうだ。荻野代表によれば「先行力を生かすスタイルの競馬をしそうですが、だからといってワガママではなく、仔馬時代から今現在に至るまで現場スタッフの評価は賢くて従順な良い子=v。じつはあまりにも賢すぎるため、競馬をバカにするような馬になってしまわないかと心配されたこともあるが、そこは少々気性が前向き過ぎるきらいがあるアメリカンペイトリオットの血がプラスに作用した。良い意味で考えすぎることなく、走りに集中し続けられる性格が功を奏している。調教主任の出戸いわく「これまでのスノーサミット産駒の中でも1歳時点でここまで手応えのある子は初めて」であり、レースで楽をすることを覚えてしまった感のある兄タイキスパルタンや、真面目すぎる性格が諸刃の剣のフロストエッジとはまた違うタイプになっていきそう。「先頭を走りながらも冷静にトレーニングに臨んでいますし、運動能力は相当に高いものがあります。このままいけば年内にはハロン15−15ペースに移行できるでしょう」と目を細めるばかりだ。
生まれてこのかた物怖じというものをしたことがなく、環境の変化にはめっぽう強い。上のクラスで活躍していくための必須条件をすでに備えているのだから、夢は広がる。
「母はダーレー出身でそろそろドカンとした馬が出て欲しいと願っている血統。この子は肩のラインが良いですし、身体に伸びがあるので、まずは芝の1400b〜1600bから動かして徐々に距離を延ばしていくイメージを持っています。大きなキャンターで広いコースを気持ち良く駆け抜ける。いつの日か大きな舞台に立っていてくれたら最高ですね」(荻野代表)
 自分本位のレース運びで、相手を待つことなく一気に畳みかける。スノーサミットの21年産の強烈な個性が放たれる日はすぐそこに迫っている。

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タイキキララの21年産

 パチパチ、パッチーン!
 小さくも鋭い音響に驚いて目をやると、タイキキララの21年産が蹴り出したウッドチップが周回コースの外ラチ上部まで飛び散り、その一部が牧柵に当たって跳ね返されていた。運動中にチップが高く飛ぶ馬はこれまでもいたが、コース外側にまでとなると初めてのケース。もちろん、ここまで飛距離が出るのは21年生まれ世代でも唯一本馬だけである。
「蹴り幅が長くてアクションが大きいからこそ、あれだけ遠くまで飛ぶのでしょうね。もともと父の特徴を色濃く出すお母さんで、この子は見た目も中身もエイシンヒカリ。目つきや顔の雰囲気などはそっくりです。それに何といっても根性が入っていますよ。この子の目を見ていると生命力の強さを感じますね」(荻野代表)
 父の子ならば気が強くてやんちゃな性格は当たり前。幼い頃から仲間同士でじゃれあい、いつも小傷が絶えないほど駆け回ってきたから、ストレスフリーで心身ともに頑丈だ。大方の予想どおり(?)初期馴致では少々うるさい面を見せたものの、一度ルーティーンを覚えてしまえばその後はすんなり。ここまで一度も休むことなく順調にメニューをこなし、調教主任の出戸からも「周回、坂路ともに前向きに取り組んでくれていますし、いつだって元気いっぱい。この先も乗って苦労することはないでしょう」と褒められる優等生だ。動かせば深いチップをものともせず、パワフルかつ繊細な走りで日に2マイルをこなす。坂路コースでは自慢のキック力でグングンと加速していき、1000mを2本上がってもすぐに息が入った。しっかり運動して、しっかり食べているので8月からの約3ヵ月間で馬体重は30キロ近く増えている。荻野代表の目にも現在のタイキキララの21年産の姿は頼もしく映っているようで、「このお母さんがようやく芝の上がりの競馬に対応できそうな産駒を産んでくれましたね」と満足そうだ。少々気は早いが、本馬に関してはすでに具体的なプランが見えてきている。
「1歳上のタイキバルドル(父ダイワメジャー)よりも体高が出て、全体にサイズアップした体型。あっちが幅ならこちらは高さ。それでもゴツさはなく、歴代産駒と比べてボディラインはスマートならば、適性はダートよりもむしろ芝。スピードで押し切る競馬でもいいですが、この子は2、3番手で折り合いをつける競馬もできるでしょう。内に秘めた闘志をどの段階で表に出してこられるかがポイント。あまり早い時期からカリカリさせたくはないので、それを踏まえれば2歳秋デビュー。ただ、順調すぎて厩舎サイドから北海道デビューを打診された場合は前倒しの可能性も十分にあります」
 兄タイキバルドルは入厩後のゲート試験で抜群のダッシュ力を見せて一発合格。大久保師も「この子走ります!ゲートもめちゃくちゃ速いですし、他の馬はついて来られませんよ!」と絶賛しており、間もなくデビュー戦を迎える予定だ。
長年チーム・タイキを引っ張ってきた看板血統が、いよいよ新たなステージへ。タイキキララ兄弟の未来にはきっと、眩しいほどの光が満ちている。

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ピアレジーナの21年産

 芝を意識したラインナップが増えた21年生まれの中にあって、ピアレジーナ21に関しては迷うことなくダート路線。じつは配合を決める段階から「砂のGT馬を作る」という目標が掲げられ、荻野代表はじめ牧場スタッフらの意見がピタリと一致したのが新種牡馬エピカリスだった。
「ゴールドアリュールの後継種牡馬ということでピックアップしていて、とくに歩きの良さと大きなストライドが目をひきました。この子は生まれた当初は背が低くて小さい馬で初仔だから仕方がないかな≠ニ思っていたところ、ムクムクと成長してきて今や他の子たちを追い越す勢い。さすがアッシュベリーの血だと感じさせる成長力を見せてくれています」(荻野代表)
 母ピアレジーナはタイキフェルヴールの半妹にあたり、膝の故障でデビューこそ叶わなかったが、調教段階の動きは荻野代表が「おそろしい走り」と言うほど並外れたものだった。前進気勢に満ちた圧巻のパフォーマンスはダート5勝の兄のはるか上だったとも。それだけに引退が決まった時の落胆は大きかった。
「生まれた時から抜けた存在で重賞級の期待をかけていた馬だったので、本当に残念でした。思い入れのある母の子なのでひいき目で見ているところはありますが、この血統のアベレージの高さは皆さんもご存じのとおり。この子は初仔とは思えないほど大きくなりましたし、順調に調教を積んでダート馬らしい逞しさも出てきました。初年度から結果を求めたいと思っています」
 時おりピリリとした面を見せた母とは違い、どっしりと落ち着いた気性は叔父タイキフェルヴールを思わせる。幼い頃から無駄なことを一切せず、それこそ置物のように大人しい性格だった。育成厩舎に移動してからも手がかかったことは一度もなく、調教主任の出戸も「いつも真面目に走ってくれて、馴致からここまで順調そのもの。誰が乗っても同じような動きを見せてくれますので、乗り手を選びません」と評価している。この日の運動中は少しだけ気合がのって、弾むようなフットワークのまま2マイルを走破。翌週のBTCトレーニングでは首をグッと下げて、上半身の力で掻き込むように登坂してきた。出戸が唯一、懸念しているのは「大人しすぎてデビュー戦はスタートで遅れる可能性がある」ことだが、かつてのタイキフェルヴールがそうだったように競馬を経験すればスイッチが入ることはわかっている。良い面も悪い面も知り尽くした血統だからこそ、荻野代表が考えているデビュープランはより具体的だ。
「芝を試すことは考えず、最初からダート1本でいきます。順調すぎるくらいに順調なので早期デビューも可能ですが、適性を考えて中距離のレースが揃って来る秋頃をメドに始動していくつもり。無駄使いはしたくないので、ピンポイントで勝ち進んでいってもらいたいですね。もし間に合うようなら全日本2歳優駿(JpnT)も視野に入れつつ、その後は海外や新たなに整備される3歳ダート路線を歩むのも良いでしょう。この性格ですから輸送や環境の変化にはめっぽう強いはずですからね。非常に楽しみですよ」
 母が未出走ということで陣営の期待値のわりに控えめな価格設定となり、何を隠そう募集開始からここまでの1番人気馬。この先は実践でスイッチをオンにして、両親から受け継いだポテンシャルを証明するのみだ。

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フェリーチェの21年産

 今や大手牧場もこぞって種付けに訪れるという日高屈指の人気種牡馬シルバーステート。繁殖シーズンのピーク時には予約を入れづらい状況が続いているが、フェリーチェの21年産の配合については母の受胎時期がシーズン終盤にさしかかっていたことから運良くすべりこめた経緯がある。
「母は現役時代に菊沢調教師からダートを芝のように走る≠ニ評されて、手脚が長い馬でもあったので、芝馬が出る可能性に期待してシルバーステートを配合しました。5月生まれですが、ここ3ヵ月ほどで急成長してすでに430キロオーバー。1歳上の兄の同時期よりもしっかりしていますし、これからまだまだ変わってきそうですね」(荻野代表)
 7月末にデビューした半兄タイキクラージュは10月までコンスタントに走って3着1回4着2回と堅実なレースぶり。5戦目を終えてひと息入れる予定だったが、放牧からほどなくして様子を見に来た谷潔調教師が「もう持っていきます!」と言ってすぐにトレセンへ戻ることになった。なぜって、連戦の疲れをまったく見せず、毛ヅヤはピカピカで馬体のハリは文句なし。好調を維持していることが一目瞭然だったからだ。
「デビューからの4ヵ月で5戦。それも勝利にあと一歩というレースをしていて、まだまだ元気があり余っているのだから、もともと持っている体力がすごいということでしょう。弟同様、兄も遅生まれですがデビュー当時と比べると筋肉がムキムキになって、確かな成長力を見せてくれています。それを見ると、本馬も現段階では早生まれの馬たちにサイズで負けていますが、成長力があることは間違いないところ。来年の今頃には追いついているでしょう」
 現時点でも早生れのライバルたちと同等に動けており、すでにBTCでのトレーニングも開始している。取材当日はひと息入れて立ち上げの段階だったが、周回コースで体を目いっぱいに動かして汗をかき、2マイルを走り終えてもケロリ。調教主任の出戸によれば「兄よりもピリリとした面があり、走ることに対して真面目」ということで、タイキステラ→タイキキララと引き継がれてきた一生懸命に走る遺伝子≠ヘ本馬の中にもしっかりと入っている。気持ちが強いタイプだから早期デビューを目指そうと思えば可能だが、クラブとしては先を見据えているからこそ大事に使っていく方針だ。
「早熟な血統ではないですし、期待の大きいシルバーステート産駒ですから早い時期からやっつけるような競馬はしません。暑い夏を避けて、2歳秋頃のデビューで十分です。適性は間違いなくマイル〜中距離。1戦1戦、大事にレースを選んでどこかで権利を獲り、大きな舞台を目指していければ。この馬は芝の上がり勝負に対応できるキレ味を持っているはずですし、スタミナと根性は筋金入りですからね。競馬の仕方次第では2400bだってこなすかもしれませんよ」
 狙うは芝・クラシックの王道か。体中にエネルギーを詰め込んで、大きく羽ばたくその日を待つばかりだ。

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フロレンティナの21年産

 これは取材当日の一場面。調教前のフロレンティナの21年産を確認した伊藤大士調教師はうん、うんと大きく頷くと、なぜだかとても嬉しそうにこう言った。
『ビッグアーサーの子はこれで良い、これが良いんですよ!』
 普段から銅像のように大人しく、腹袋が大きいボリューム優位の体型。芝の中・長距離路線を目指す馬たちとは一線を画すフォルムだが、育成のプロが見れば短距離のスペシャリストが送る産駒はこれが正解ということだ。伊藤師は『変に細くしないで、このドシッとした感じのままでいてください』と言い残すと、ご機嫌で帰っていった。
「先生はトレセンでビッグアーサーの子をたくさん見てきているのでしょう。成功している産駒の特徴をわかっているのだと思いますよ。この血統は競馬を覚えていくと、どうしたってうるさい面は出てきますからね。私も今は大人しすぎるくらいでちょうどいいと考えています」(荻野代表)
 障害で2勝を挙げて重賞にも出走した半兄タイキフロリゼルも、育成時代はアザラシのようにどっしりと大人しいことから通称『ゴマちゃん』と呼ばれていたが、今はその面影がすっかりなく、ピリッとした競走馬らしい気性になっている。内に秘めた闘志が表に出てきた時、ガラリと印象が変わるのがこの母系の特徴でもある。
「そういう血統であることを踏まえれば、状態がピークになる前から使い出して2戦目、3戦目あたりで覚醒して勝利をつかむイメージでいいのでは。調教の進み具合にもよりますが、6月〜7月にかけて競馬をして暑い8月にひと息入れる。そんなプランを今のところは考えています」
 父ビッグアーサーはトウシンマカオ、ブトンドールと2世代連続でスプリント重賞勝ち馬を送り、2歳戦から活躍できるスピード遺伝子を産駒に伝えている。また、母フロレンティナは年々子出しが良くなり、1歳上の姉ピースフルナイト(父ファインニードル)はデビュー戦で400キロを切る小柄な馬体ながら、センスの良い走りで0秒4差3着。直線は遊びながら走っていただけに能力を証明する初陣となった。
「ファインニードル、ビッグアーサーはともに距離が短いですが、母系を考えるとマイルかそれ以上の距離にも対応できそう。この子はトレーニングの様子を見ていても疲れを知らないですし、幼い頃から元気いっぱいで病気ひとつしたことがない健康優良児です。そういう部分も競走馬としての大事な資質。スタミナや基礎体力は十分なものがありますよ」
 周回コースの運動量を2周から4周に増やしても、初日から呼吸を乱さず平気な顔で回ってくるのだからたいしたもの。前述のとおり、まだまだ余裕のある体つきながらも動きは俊敏で、トップスピードの走りを見たい衝動にかられた。
「早期から動けるタイプでお手頃価格。買った人はニヤリとすると思いますよ。楽しみに待っていてください」
 ヴェールを脱ぐのはもう少しだけ先のお話。晴れ渡る青空の下、新緑のターフで再会できる日を楽しみに待ちたい。

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アッシュベリーの21年産

 幼い頃はやんちゃで我が強く、しょっちゅうスタッフに叱られた。それでも、何度怒られても人間が大好きで、優しく触ってくれるスタッフを見つけると我先にと駆けていき、めいっぱい甘えさせてもらった。自由奔放で快活。アッシュベリーの21年産はそんなムードメイカーのような女の子だった。
「当歳時の頃を思えば今はずいぶんと大人になりましたね。人間のことが大好きなままで育ってくれましたので、初めての馴致や騎乗トレーニングに移行する際にも受け入れが早かったです。受け入れが早いということは人馬ともにケガのリスクが少なくなりますから、この先のステップアップを考えると安心できる材料ですね」
 ストレスフリーの環境で育ち、人と信頼関係を築いてきたからこそ見られる確かな成長の跡。育成厩舎に移動後も順調に予定していたメニューをクリアして、春先と比べると馬体もひと回り大きくなった。飛節のおりが深いのはアッシュベリー産駒に共通するところだが、毛色や全体のフォルムなどは父サンダースノーの影響を強く受けている。
「歴代の産駒の中でもスポーティーな体つきで、素軽さを感じます。この配合でアッシュベリーの子ですから肉量の多いブリッとしたタイプを想像していたのですが、生まれてきたら『あれ、ちょっと違うぞ』と思って。成長するにつれてやっぱり違うぞとなって、今はむしろ違う方が良いかもしれないと思っています」
 配合相手の特徴を出しやすい母だけあって兄姉との共通点は少ないが、裏を返せば歴代産駒を悩ませてきたマイナス要素が引き継がれる心配もないということ。初仔エヴェリーナに見られた牝馬特有のキリキリした気性は見られず、代表産駒タイキフェルヴールの1歳時よりも馬体に幅があって垢抜けている。調教主任の出戸によれば「お尻が大きくて立派な馬。1歳上のタイキラフター同様、後ろに積んでいるエンジンは良いものを持っている」とのこと。その兄は成長途上の緩さを残した状態でデビューして6着→4着と上昇をたどり、あと一歩の段階まできている。勝負の年≠ニ位置付けた20年生のエース候補だけに荻野代表の言葉にも熱がこもる。
「タイキラフターは脚のたぐりが大きいから、今はまだGOサインに俊敏に対応しきれていないだけ。エンジン性能に見合った体とメンタルを手にした時にはバーンと弾けると思っています。21年度産駒についてはすでに動ける体をしていますし、駆動の伝達スピードは兄より速い。トレーニングを見ていてもサッサッと動けています。ドバイWCを2回勝った父は芝もこなしましたし、距離の融通もきく。この子には2000b以上の距離をこなせる競走馬になって欲しいと願っています」
 本馬については2歳夏までは北海道でじっくり乗り込んで、体をしっかりと作った状態で送り出す方針。アッシュベリーの後継として、血の価値をさらに高める活躍を期待せずにはいられない。

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エステーラブの21年産

 「良くなってきたよ、すごく良くなってきた。全然、細く見せなくなったよ!」
 騎乗スタッフたちに笑顔で声をかける荻野代表の視線の先にいたのは、エステーラブ21だった。母にとって5年ぶりとなる2番子は、国内外のクラシックディスタンスを駆け抜けたスワ―ヴリチャードのファーストクロップ。姉のラブインブルーム(父タイキシャトル)が距離を延ばして良い走りをしたことから、中〜長距離適性を高める意図をもって配合され、狙いどおり胴伸びのある産駒が誕生した。母エステーラブは長らく不受胎が続いていたが、これまで放出せずに配合を続けてきた理由はやはり血の魅力にある。
「費用対効果を考えれば苦しいところでしたが、半弟にダート重賞5勝のクリンチャーがいる血統背景をもつお母さんですから、今年こそはと踏みとどまってきました。時間はかかりましたが、ようやく念願の産駒誕生となり、ホッとしましたね」
 大きなフレームで生まれた本馬だったが、5月生まれということもあって幼い頃はどうしても華奢に映った。募集カタログ撮影時でもその印象を覆すまではいかなかっただけに、乗り出してからの変貌ぶりには荻野代表も驚きを隠せなかった。
「良い心臓を持っていることはわかっていましたが、この短期間でこんなにタフで伸びやかな走りになるとはね。以前は体の細さを心配していましたが、今日は5頭併せの先頭を走って余裕がありました。今では生まれの遅さを感じさせませんし、体の全長が伸びて、全体に成長してくれている。安心しました」
 姉ラブインブルームは新馬3着から未勝利で善戦し、地方から戻った1勝クラスで2着。確かな能力を示していたが、それでも中央で勝つことはできなかった。その当時の思いについて荻野代表は「いろんな意味でもっとタフな馬を作らないとダメだ≠ニこの馬から学んだところがある」と振り返る。もっと高いステージを目指すために今できることは何か。その答えを探し続け、できることはすぐに実行してきた。
 ここ数年で変化したことはいくつもあるが、例えばトレーニングと併行して可能な限り長く放牧時間を設けていることもそのひとつ。時には夜間放牧から戻ってすぐに調教がスタートするというから、若駒にとってはなかなかハードだ。しかし、その効果はすでにデビューしている上の世代で立証されており、このエステーラブ21のように1歳夏から冬にかけて急激に変わってくる馬もいる。
「夜間放牧をやりながら乗っていることが体力強化に繋がっていることは間違いありません。ストレスの解消にもなりますし、放牧地で砂を浴びて地面にゴロゴロすれば背骨が整う。夜になれば五感を研ぎ澄まして、神経を張り巡らせますから続けているうちに性格も図太くなっていきます」
 放牧をすれば冬毛は伸びるし、運動量が増える分だけ無駄な脂肪がつきにくく、見栄えは決して良くないかもしれない。しかし大事なのはあくまでも中身だ。自然に近い環境の中で馬齢に合わせた成長を遂げることができれば、それ以上のプラスαが見込めるだろう。
 華麗なる変身を遂げたエステーラブの21年産のデビュープランは、2023年夏の北海道シリーズ。まずは芝1500bの舞台を想定しており、その後は距離を延ばしていって、いつか大輪の花を咲かせるつもりだ。

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グッドイヴニングの21年産

 瞬間的に燃焼して、爆音を轟かす。通称バクチク娘≠ニして世代のトップバッターを目指しているのはグッドイヴニングの21年産。中央で13戦2勝、6連対の成績を残したタイキラッシュの全妹にあたり、派手なルックスやフォルムはその兄にそっくりだ。
「わかりやすい全兄妹でしょう。間違いなく早熟なので6月の阪神からで行けそうな手応えです。ただ、競馬に行って燃えやすい気性になることはわかっているので、例えばゲート練習で燃えちゃうような馬にはならないように気をつけてトレセンに送りたい。使い過ぎたらダメなタイプだと思うので、
ピンポイントで狙って勝ち進んでいって欲しいですね」
 4年ぶりに再びメイショウボーラーを配合したのは母の排卵が想定以上に早かったため、牧場からほど近いイーストスタッド繋養だったことも決め手のひとつだった。ただ、それ以上に母系との相性の良さを兄が証明していたことが重要なポイント。事前にピックアップしていた配合候補の中にしっかりとメイショウボーラーの名前はあった。
「兄よりもひと回りコンパクトですが、馬体の完成度はこちらの方が上。バランスが良いですし、つくべきところに良質な筋肉がしっかりとついています。とくにトモの力強さは牝馬の中でもトップレベル。楽しみですよ」
 母グッドイヴニングの産駒というと500キロオーバーの大型馬が多かったが、本馬は現在400キロ前後の平均サイズ。調教主任の出戸によれば「2歳上の兄タイキエクセロンと同じくらいのサイズで、前向きな気性は1歳上の姉ラピッドベルに似ている」とのこと。デビュー戦でクビ差2着と惜しいレースだった姉同様、初戦から楽しませてくれそうなタイプだ。
 取材当日の周回コースでは前2頭の直後に単独でつけて折り合いスムーズ。良いペースで飛ばしていく2頭に離されずについていき、しっかりとGOサインを待つ従順な一面も見せていた。その様子を確認した荻野代表は「良い雰囲気ですね。このくらい余裕を持たせた状態で進めていければ大丈夫。幼い頃から走りのキレイな馬でしたが、その当歳時のイメージそのままに成長してきた感じです。メンタル面は春先よりもすいぶんと大人っぽくなりましたし、熱くなりすぎていないのが良い」と合格点を出した。翌週のBTC坂路コースでは立て続けに2本上がってもケロリ。本場の周回コースよりも馬場が軽いせいか、汗もほとんどかかずに戻ってきた。
「どの馬もそうですが、周回コースのチップが深いので坂路コースに出ると軽々と走ってきます。だからといって周回ばかりだと馬が疲れて細くなってしまうので、リフレッシュも兼ねて周回→BTC→周回→BTCとローテーションでメニューを組んでいます。あとはどこでペースを一段、二段と上げていくか。この子は早期デビューを見込んでいますから、年明けも早い組のまま進めることになると思います」
 雪解けの春を迎えた頃、バクチク娘≠ヘより一層たくましい姿になっていることだろう。そうなればあとは点火の瞬間を待つだけだ。

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スピーナの21年産

 クラシックディスタンス対応の胴伸びのある好馬体。スピーナの21年産は母の初仔ながら十分な体高があり、現在450キロ前後と馬格に恵まれている。荻野代表が2019年繁殖セール会場で母の馬体に惚れ込み、その時にお腹に宿していたのが本馬だった。
「当時、父のラブリーデイは未知数でしたけれど距離が長い馬ですし、母父ハーツクライとの掛け合わせならゆったりとした馬が出てくるのではと思っていました。そうしたら思い描いていたとおりの姿で出てきてくれて、よし!と。ハーツクライはもう種牡馬を引退してしまいましたし、このお母さんと出会えたことは幸運でした」
 母は喉の疾患が影響して競走成績を残せなかったが、その母ローズキャサリンは北米リステッド競走2勝を含む7勝。本馬は母系のスピードを生かしつつ、スタミナを意識した配合となっている。首差しからき甲までの距離が長く、流れるようなボディライン。幼い頃から柔らかい動きとバネの良さが目を引き、芝の長い距離を意識させた。
「おっとりした性格で無駄なことをしないので手がかかりませんでした。早生まれで成長スピードも早かったので、同世代の中ではお姉さんのような立ち位置ですね。丈夫な馬でここまでケガや病気は一度もなし。他の馬たちと同様、順調にトレーニングを積んできましたので、不安なところは何もありません」(荻野代表)
 育成厩舎に移動した直後はややのっぺりとした体つきだったが、しっかり食べて、しっかりと負荷をかけてきただけに無駄な脂はついておらず、骨格に見合った凛々しい体つきへと変化してきた。周回コースではどの馬よりも前脚が伸びて、推進力に優れた走り。深いチップを力強く蹴りだして、どこまでも伸びやかだ。調教主任の出戸は「気の良い馬でスッスッスッと動ける。深いチップでも脚元を気にすることなく真っすぐに走れているのは、体に芯が入っているからです」と称賛し、「このままいけば第一陣で移動する可能性もあるのでは」と早期デビューの可能性を口にした。それもそのはず。スピーナ21の馬体重は9月から12月にかけての約3ヵ間でプラス18キロ。そのすべてが成長分だ。
 タフに走り続けたトレーニングを見届け、最新の馬体重の報告を受けた荻野代表はしかし、「今はまだ薄く映りますし、肩甲骨あたりにもう少し筋肉がついた方がいい」とあえて厳しい注文をつけた。なぜって、目指す舞台が頂上にあるなら、その山を登るための準備は入念に行わなければならないからだ。
「完成時の姿が楽しみですよ。気性的にはこのまま気合がのりすぎないように競馬場に送って、肩の力を抜いてゆったりと走れる競走馬になって欲しい。早期デビューでまず1勝してひと息入れるもよし、秋まで待って確実に勝っていくのもよし。無茶な使い方をしない高野友和厩舎なら適性に合わせてレースを選んでくれると思いますし、クラシックを意識していろんなプランを練っていきます」
 女王への階段を駆け上がることこそが本馬の使命。その走りには一見の価値がある。

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タイキグラミーの21年産

「くっきり、はっきりしている馬。まるでゴクミの眉毛と目ですね!」
 Z世代にはおそらく何のこっちゃ?であろうが、荻野代表が例えたゴクミ≠ニは昭和に一世を風靡した女優・後藤久美子を指す。たしかに当時はもちろん、現在に至っても彼女ほど凛々しく整った顔立ちの日本人女性は見たことがない。そんな国民的美少女に例えられたのはタイキグラミー21。なるほど、見た瞬間にスピードタイプとわかる流線形の体型で、クリクリとした大きな瞳に吸い込まれそうになった。
「距離を延ばすことを意識して配合した兄姉たちもスピードタイプに出たことを思えば、やはりこの血統を生かすのはスプリント路線。だったらいっそ、その道のスペシャリストをということでメイショウボーラーを配しました」
 こうして誕生したタイキグラミーの5番子は、生まれた時から美しい馬体をもち、好バランスを一度も崩さないままスクスクと成長してきた。肉厚で大きなトモから繰り出されるキック力は世代bPレベル。チップの深さをまったく感じさせないパワーがあり、それでいて弾むような軽いフットワークで加速していくのだから文句をつけるところがない。
「この母にこの父を足したらこう出ますよ、というお手本のような馬。牝馬ですが、首差しから肩にかけての作りは男馬にも負けていませんし、歴代の産駒と比べても上出来です。競馬の仕方次第でマイルは守備範囲に入るかもしれませんが、この馬でクラシックディスタンスを狙おうという考えは全然ありません。何なら新潟の直線1000bでスピード勝負に挑んでみたいくらい。そのくらい目標がハッキリしています」
 多少やんちゃな面はあるが、普段は手がかからず人間に対しても従順なタイプ。しかし、スイッチの切り替えが凄まじく、ひとたびBTC坂路コースに入れば「鬼の形相で上がってくる」というから気合の入り方が違う。馬体重は7月からここまで460キロ前後で推移しており、完成度の高さもアピールポイントだ。間もなく15−15ペースに移行し、順調ならそのままペースアップを図る予定。持ち味を最大限に生かすべく、早期デビューで2歳戦からの活躍を見込んでいる。
「中央で2勝している兄ブルースコード(父ミッキーアイル)と似た競馬スタイルになると思いますので、同じ伊藤圭三先生にお願いしました。デビュー時期は仕上がり次第すぐにでも。スタートして何もしないままスッと行って押し切るという、血統からイメージするとおりのレースで勝ち上がってくれるでしょう。路線もレースの仕方もわかりきっている馬ですからね、お買い得な1頭だと思いますよ」
 母系から短距離ダート適性の高さは間違いないところだが、トビがキレイで軽さを感じる走りぶりからは芝をこなせる可能性も十分。いずれにしてもコースや天候に左右されるようなヤワな馬ではなく、どんな舞台が用意されたとしてもやることはひとつだ。ゴクミ≠謔しくド派手でわかりやすいパフォーマンスを見せてくれることだろう。

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タイキマロンの21年産

 姉アースビート(父サトノクラウン)は2021年募集馬の中でいち早くJRAウイナーとなり、次なるステージへ向けて態勢を整えているところ。父がディスクリートキャットに替わった母の2番子は、その姉とよく似たフォルムに生まれ、米国種牡馬の血が入っている分だけよりグラマーな体つきへ成長してきた。大きなお尻にボリューム感のある胸周りはいかにもアメリカンで、境目がくっきりと見える発達したトモが上半身を支えている。
「アースビートは初仔ということもあって使いながらのタイプと見ていましたが、いつの間にかピリッとした気性を見せるようになって嬉しい新馬勝ち。タンザナイト→マロノヴィーナスと継承されてきた才能豊かな血が開花して、このお母さんの子は年々良くなっていく手応えを感じています」
 幼い頃から走ることが大好きで、繁殖厩舎のスタッフたちが「どんだけ?」と驚くほどの元気印だった本馬。誕生2、3日目から馬房内をギュンギュンと勢いよく走り回り、それを見守っていた母がついに目を回すという珍事が起こったほどだから、もはや活発の域を超えている。
「体力があり余っている感じは今も同じですが、姉よりも落ち着いた性格で、普段は他の子たちよりも大人しいくらい。でも調教が始まるとスイッチが入る一面はあるので、キリキリする方向にいかないように余裕をもたせながら進めていこうと思っています」
 周回コースではチップを撒き散らして推進し、BTC坂路コースでは斜度を感じさせないほどスピーディーに登坂してくる。成長途上の1歳馬としては十分に見事な走りだったが、調教主任の出戸は「前駆と後駆の動きがバラバラになることがあり、まだしっかりと背中を使えていない」とここはあえての辛口評価。その理由は「ふっと力が抜けてきたら、もっと反応は速くなるでしょうし、ひと息、ふた息と短期休みを入れた時にガラリと変わってきそう」と今後の変化を確信しているからだ。
 調教ペースに関しては他の馬と同様、年内にハロン15−15レベルまで持っていき、以降は馬の成長を見ながら方針を決めていく予定。さらなるペースアップは気持ちに見合った体を手に入れた時、ということになる。
「パーツはもうあるので、そこに実が入ってくればOK。ディスクリートキャットは芝への適性もありますし、この子は芝のマイルでスピードを生かす競馬をイメージしています。早ければ夏、遅くとも秋にはデビューの日を迎えられるでしょう」
 門外不出ともいわれた貴重な血脈の継承者でもある本馬。その体には底知れぬエネルギーが蓄えられている。

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マロノヴィーナスの21年産

 2022年エリザベス女王杯当日、競馬場で流された追悼VTRの中にこんな言葉があった。『人生は競馬と同じように山あり谷あり』。長きに渡って競馬文化に貢献された女王への感謝が溢れると同時に、荻野代表の心がギュッと震えた。どんなに高く険しい山でも諦めずに登り続けたからこそ今がある。そして、苦しい時をずっと支えてくれたのは他ならぬサラブレッドたちだった。
 チーム・タイキの生産部門の中で、ひときわ華やかな血筋をもつマロノヴィーナスが天国に旅立ったのは今年2月のこと。それはあまりにも突然の別れだった。
「間もなくお産を迎えるというタイミングでお腹の子と一緒に亡くなってしまいました。悲しいですが、馬産の世界ではあること。遺された子どもたちが血を繋いでいきますし、しっかりと成績を出して、母の名を後世に残してもらいたいと思っています」  母のラストクロップとなったマロノヴィーナス21は22年募集の牝馬の中でもbPの馬格があり、12月計測ですでに460キロオーバー。歴代産駒と比べても前駆と後駆のバランスが良く、均整のとれた好馬体の持ち主だ。
「母の子は気性的に癖のある馬が多かったのですが、この子は気になるところがありませんし、調教の過程もうまくいきすぎているほどです。もともと子出しの良い母でしたが、この子の馬体は何ひとつケチをつけるところがない。今までの産駒の中でも一番格好良いと思います」
 父デクラレーションオブウォーは英GTヨークインターナショナルS、クイーンアンS勝ち。19年から日本で供用され、12月18日時点で2022年JRAファーストシーズンサイアーランキング3位につけている。芝、ダートを問わず、距離の融通もきくことから今後さらに需要が高まりそうな注目種牡馬だ。本馬の肩からお尻にかけての背中のラインは兄姉たちと共通するところだが、肩回りやトモの厚みは父から譲り受けたもの。周回、坂路のいずれでも見た目どおりのパワフルな走りで、体全体を使った動きができている。調教主任の出戸からも「真面目な性格で、前向きにトレーニングに臨んでくれていますし、今のところ文句をつけるところはない」とお墨付きをもらった。
 育成厩舎に移動後は一度もトレーニングを休んだ時期はなく、すべてが順調そのもの。あまりに楽に走りすぎて、騎乗スタッフがちょっと油断するとハロン13秒ペースまで上がってしまうので注意が必要なほどだ。ということは、完成度の高さは言わずもがな。荻野代表の頭の中にはすでに具体的なプランが描かれている。
「先日、西園先生とも話をしましたが、この馬は4月か5月に本州へ移動して、ゲート試験をパスしたあとに一旦北海道へ戻すことを考えています。函館競馬場に入れるか浦河に戻すかは状況次第ですが、順調ならば札幌の芝1500bでデビューさせたい。使ったあとはひと息入れて、秋以降に備える予定でいます」
 名家出身の母が遺した渾身のラストクロップ。血の力を証明する走りをとくとご覧あれ。

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